灯火の先に 第10話


どれほど傷つき、どれほど悲しみ塞ぎ込んでいても時間は絶えず動き続け、あの爆破テロからスザクが明るい笑顔を取り戻すまでに1年という月日が流れていた。
スザクの耳に世界に関する情報や、ルルーシュとゼロを思い出させる言葉を入れないように注意をしながら、彼らはオレンジ農園で平穏な生活を送っていた。
最初は屋敷から出る事もなかったスザクだが、最近は天気のいい日に外に出て手伝いをするようになっていた。
とはいえ目は相変わらず見えないため、基本的にアーニャの荷物持ちと補助だ。
元騎士である彼女はそれなりに腕力があるが、男と比べれば格段に劣りるというのもあるが、今までならジェレミアしかこなせなかった力仕事も、彼女の目と指示があればスザクにもこなせるようになっていた。
これは、知っている場所なら杖なしで歩けるようになった事、そして、気配を探り動くものがあればそれに気づけるようになった事が大きいだろう。 スザクは慣れてくると、目が見えていない事を忘れてしまうほどよく動いた。元々体を動かすのが好きなスザクは、働けば働くほど嘗ての明るさを取り戻していった。
明るい太陽の日差しの下、自然な笑顔を見せるようになった頃には、ジェレミアとアーニャを相手に組手が出来るようにもなっていた。

咲世子から目隠し訓練の話は聞いたが、それは暗闇に慣れるための訓練で、盲人が戦闘など夢物語だろうと鼻で笑っていたC.C.だったが、流石運動神経の塊、天賦の際に恵まれた男だ。C.C.達が来て僅か3ヶ月で、これだけの結果をスザクは出した。
鬱々と膝を抱えて項垂れていた頃とはまるで別人。
本人には絶対に言わないが、これに関しては手放しで称賛していた。
想定外の結果。
だが、これでいい。
スザクを表舞台にという話があれで立ち消えになったのも良かった。

あの日、カレンがナナリーの元へ戻った時には、既にゼロの影武者がシュナイゼルの傍におり、スザクを戻すのは愚策だと、シュナイゼルはナナリーとカグヤ、カレンに言い聞かせたという。
だから、もう彼女たちが来る事はないだろう。
スザクはこのままここで暮らせばいい。
盲人とはいえこれだけ動ける人間が増えたのだ、この果樹園も楽になる。
最良の流れで、すべてが丸く収まった。
・・・そろそろ、この地を離れる頃合いだな。
そう考えながらC.C.は、今日もゴロゴロとソファーに寝転がりながらテレビを見ていた。
スザクの精神安定のために、情報と名のつくものはその耳には入れられないため、基本は新聞、あとはスザクのいない時間帯にこうしてテレビやラジオで拾うかネットで調べる方法を取っている。
新聞の情報は遅く、ネットは調べて初めて情報を手にできる・・・つまり、めんどくさい。だからC.C.は家でゴロゴロしながら、こうしてニュースを流して緊急な情報が無いかアンテナだけは立てているのだ。
世界情勢は、正直いえばあまり思わしくはない。
戦争はないが、小競り合いや暴動、デモは連日といっていいほどどこかの国で起きていた。だが、こればかりは仕方がない、ここまではどうにもならないし、これを鎮めるのはゼロではなく超合衆国の役目だから、大きな事件にならない限りは流し見だ。
だが、この時すでに老獪なC.C.でさえ気づいていない問題が発生していた。
ゼロレクイエムに携わった弊害が、彼女の判断を鈍らせていたと言っていい。
ゼロの影武者とシュナイゼルは、何の問題もなくやっていると思っているのは全てを知っている人間だけだったのだ。
つまり、最初のゼロがルルーシュで、二代目がスザク、そして今は三代目として動く影武者が誰かを知る者だけ。
それを知らない者たちは、不安と疑問を抱えながら日々を過ごしていた。

最初は、些細なことだった。


今までのゼロ。

ほんの数年前まで敵だったはずのゼロに対し、ブリタニア代表ナナリーは親しげに声を掛け、その命さえ預ける人物で、超合衆国議長カグヤも親しみをこめて話しかけている相手だった。何より黒の騎士団零番隊隊長カレンもよく知る人物だったのだろう、カレンはゼロを守るためにその命をかけて動き回るほどだった。

爆破テロ後に戻ってきた今のゼロ。

ナナリー代表は、その態度を一転しまるで見知らぬ他人、未知の存在と話す様にどこかよそよそしくなり、ゼロを護衛にする事はなくなった。その車いすをゼロがよく押している姿を以前はよく見られたが、今は手を出そうとすれば拒絶する。信用できないと言っているようにも見えた。議長であるカグヤも、今までは親しげに語りかけていたが、こちらも見知らぬ誰かに話すような態度に変わった。カレンも同じで、護衛をする距離も以前より離れ、意思疎通など全くなく、ゼロのために動こうとする姿さえ見えなくなった。ゼロが発言する内容によっては、苛立たしげに睨むような姿さえ見られた。

そんな場面を見れる者は少数。
映像に映ったとしても短時間。
それでも多くの違和感が積み重なり
やがて一つの噂がまことしやかに囁かれ始めた。


初代のゼロは、ブラックリベリオンで捕縛され処刑。
二代目のゼロは、フレイヤによる怪我が原因で死亡。
三代目ゼロは、爆破テロによって表に立てなくなり。
今は四代目ゼロなのだと。


そこまではいい。
だが、そこから尾ひれがつき始める。

既に三代目はあのテロで死んだのではないか。
ゼロの正体は誰も知らない。
だから、入れ替わる事は可能なのだ。
初代の、二代目の妻と名乗ったカグヤは、三代目とも親しかった。
初代の、二代目の親衛隊の隊長をし、三代目にも仕えていたカレン。
つまりこの三人のゼロは日本と関わり合いのある人物で、後を継ぐだけの理由と、意思、そして資格をもっていたのだろう。
それをカグヤとカレンは知っており、代替わりをしても変わることなく接していた。

だが、今のゼロは違う。
もしかしたら・・・三代目ゼロは四代目に暗殺されたのではないか。
そして四代目を名乗る男がゼロを乗っ取ったのではないだろうか。
ゼロの正体をばらすとでも脅され、全てを知るカグヤとカレン、そして恐らくナナリーもゼロの素性を隠すために口を閉ざすしかないのではないか。
その人物によって、超合衆国は乗っ取られるのではないか。

真実を知る者、現在の影武者の中を知る者が聞けば笑い飛ばす内容だが、未知の存在に対する恐怖は歯止めが利かなくなり、人々がゼロに対する不信感を持ちはじめるまでそう時間はかからなかった。

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